釧路簡易裁判所 平成元年(ハ)1092号 判決
(抄録)
「第三 争点に対する判断
一 争点1(割賦購入あっせん契約の成否)について
1 (右契約の成立)
<証拠>によれば、Yが販売店であるAから依頼を受けて自己の名義を使用することを承諾し、右AはYの印鑑を利用してX・Y間に本件割賦購入あっせん契約を締結(Aの代理行為)した事実が認められ、なおYにおいては、Xからの契約意思の確認の際にも肯定的な回答をしている事実が認められるところからも併せると、本件右契約は有効に成立したものと認定することができる。
2 (右契約の効力=名義貸し)
そこでYの、右Aとの間で締結された売買契約が仮装された(虚偽表示)との主張がXに対抗できるかについて判断する。一般に、購入者が当該売買契約を締結するに当たって自由意思を害されるような状況のもとでなされた(すなわち無効もしくは取消原因の存在)場合であればともかく、本件の場合は、購入者たるYが任意な意思で売買契約の外形を作出することに応じていることが認定できるのであって、このような場合にまで割賦販売法三〇条の四(抗弁の接続規定)を適用して信販会社たるXに抗弁することは信義則上から許されないものと解するのが相当であるから、右主張をもってしても本件割賦購入あっせん契約の効力を左右するには当たらないものと判断する。
二 争点2(契約締結上の過失)について
1 (右主張の位置づけ)
本来は、契約がその締結過程において当事者の一方に帰責事由があって、契約の成立に障害があったためその相手方に損害が生じた場合は、契約の原始的全部不能となり、不法行為の法理等によって処理されるべきものであるが、現時における消費経済の複雑・多様化は消費者保護の視点から、いわゆる、「専門家対素人」の取引関係に対処する手段として、契約締結の過程における知識の乏しい消費者に対しては、専門家たる業者が必要にして充分な「契約内容」の伝達をし、その理解を得たうえで契約関係に入ることが要求される(明示義務・告知義務)ものとし、右の場合専門家が経験不足の相手方に対する明示義務等を故意または過失により尽くしていないときは、契約が有効に成立したことを前提として契約上の責任を負うべきとする見解がある。Yの右主張は、これと脈絡を一にするものと解するので、以下これを判断する。
2 (Xの過失)
そこで本件割賦購入あっせん契約(以下「本件契約」という。)が有効に締結されていることは右認定のとおりであるが、その締結段階においてXに明示義務・告知義務違反の過失があったかについて判断する。
まず、①過失の有無を判断する前提として、Xに「空売り」もしくは「名義貸し」を予見すべき義務があったかについてであるが、<証拠>によれば、Xは、本件契約の販売店であるAと加盟店契約を締結したのは本件契約締結に先立つ昭和六二年一〇月ころの時期であることが認められる。ところでXは、加盟店である右Aに対し、本件契約を締結する手段として、いわゆる「立替払契約」の用紙を一括して預けており、本件契約も右AがXの契約締結事務を代行していたものと認めることができ、またXは、本件契約締結の当時関係省庁の行政書簡により加盟店の信用状況の把握及び「名義貸し」防止に努力すべきことを認識していた事実も認めることができる。これらの事実に<証拠>を併せると、本件契約のようなその取引対象が呉服物であった場合は契約成立時から納品時までの間に一定の時間的な間隔があって消費者トラブルの発生し易い危険が少なからず考えられるであろうから、本件契約書面に設けられている「商品引渡期限」欄が空白であった場合は「空売り」もしくは「名義貸し」の危険を予見して、それらの事態を防止すべき営業上の義務がなかったとはいえないものと解される。
そこで、②Xが右①の義務を尽くしたかについて判断すると、既に認定したようにXは自己の契約締結事務もしくはその準備的事務を右Aに代行させていたのであるから、その者がXに代わって消費者トラブルの発生防止に努力したであろうことを期待したほか、自らも消費者に対して「契約の仕組み」を正確に理解できるような告知をすべきであり、さらには「名義貸し」の事態を避ける意味での契約の明示(たとえば「期限の利益喪失」条項などの説明等)をすることが要請されていたはずである。ところで前掲各証拠によれば、XはYに対して、殊更にこれらの告知・明示をしたとの事実を認めることができず(電話による契約意思確認の際にもほとんど形式的照会に止まっている)、してみればXが右①の義務を尽くしたものと認定することは困難である。もっとも、Xに課せられたこれらの義務も、消費者たるYが加盟店(右A)との間で共謀してXから立替金名目で金銭を騙取する場合は、ほとんどその機能が発揮されない(Xの主張)との事態も考慮されるべきであろうが、それは取引関係に精通している消費者と加盟店間においてこそ考えられるものであって、本件のように割賦購入あっせん契約関係の知識が極めて乏しいと認められるY(Yは本件契約当時五一才であり、かつ、公務員であったことは<証拠>によって認められるが、そのことの故にこの契約関係に精通していると認定する資料はない。)が、自らは何らの利得を得ることもなく、もっぱら加盟店の一方的な働きかけによって取引関係に立ったことが認定できる場合にまで妥当するとは考えられず、そうであるからこそXは本件契約を締結する段階でYに対し、必要にして充分な告知・明示をすることが求められるものと解されるから、右に示した認定を覆す理由とはならない。
3 (結論)
以上によれば、Xにおいて本件契約を締結する段階で専門家としての注意義務を尽くしていないことになり、それは軽々に右Aのなした事務処理を信じた結果であることからXに「契約締結上の過失」があるものと解される。そこでYの右主張は首肯でき、その結果としてYのなした本件口頭弁論期日における本件契約を解除する旨の意思表示は当裁判所において顕著であるから、その限りにおいてXの本訴請求は理由がない。」